板金塗装はやめとけの真相｜向き不向きと将来性を解説

「板金塗装はやめとけ」という言葉を目にして、この仕事に興味を持ちつつも不安を感じていませんか。給料が安い、労働環境が厳しいといった評判や、高い平均年齢が示す業界の将来性について疑問を持つのは当然のことです。

また、ディーラーは下手という噂や、クレーム対応、保証期間のプレッシャー、さらには仕上がりへの不満といった具体的なデメリットに関する情報も気になるところでしょう。

この記事では、そうしたネガティブな側面だけでなく、板金塗装に向いている人向かない人の特徴までを深く掘り下げ、あなたが後悔のない選択をするための客観的な情報を提供します。

板金塗装はやめとけと噂される厳しい現実

給料が安いと言われる業界の実態

板金塗装の仕事の給与は、日本の全産業における平均年収と比較して低い水準にあるのが実情です。

なぜなら、板金塗装業界は自動車ディーラーなどの下請けとして機能している工場が多く、仲介料が発生することで利益が圧迫されやすい構造になっているためです。また、作業工程の多くが職人の手作業に依存する労働集約的な性質を持っていることも、給与水準が上がりにくい一因と考えられます。

具体的に、年代別の給与相場を見てみましょう。

ただし、これらの数字はあくまで平均的なものであり、全ての職人に当てはまるわけではありません。勤務する企業の規模や地域、扱う車種（高級車専門など）、そして個人の技術力によって収入は大きく変動します。例えば、塗装技能士や自動車整備士といった国家資格を取得すれば、資格手当が支給されて月収が数万円上がるケースも少なくありません。

以上の点を踏まえると、平均値だけを見ると「給料が安い」という側面は否定できませんが、スキルを磨き、経験を積むことで収入アップを目指せるほか、将来的には独立開業して年収600万円以上を得る道も開かれています。

覚悟が必要な体力的に厳しい労働環境

板金塗装の仕事は、オフィスワークとは全く異なり、身体的に非常に厳しい環境下での作業が求められます。

最も大きな要因は、一日を通して立ちっぱなしであったり、中腰や腕を上げたままの不自然な姿勢を長時間維持する必要がある点です。バンパーの取り外しや車体下部の作業では腰に大きな負担がかかります。また、工場によっては冷暖房設備が十分に整っておらず、夏場は40度を超える猛暑、冬場は凍えるような寒さの中で作業することも珍しくありません。

さらに、作業環境には特有の過酷さが伴います。

五感を刺激する労働環境

塗装ブースでは、塗料やシンナーといった有機溶剤の刺激臭が常に漂っています。防毒マスクを着用しますが、完全に臭いを遮断できるわけではなく、慣れるまでは気分が悪くなる人もいます。 また、板金作業で金属を削るサンダーの甲高い音や、コンプレッサーの作動音といった騒音が絶え間なく響き渡るため、耳栓が手放せません。研磨作業で発生する粉塵も、防塵マスクなしでは健康に影響を及ぼす可能性があります。

このように、板金塗装の仕事を選ぶ上では、単に作業内容だけでなく、こうした過酷な労働環境に耐えうる体力と精神的な強さが不可欠です。

仕事内容に関するその他のデメリット

給与面や体力的な負担以外にも、板金塗装の仕事には特有のデメリットが存在します。これらを事前に理解しておくことは、就職後のミスマッチを防ぐ上で大切です。

第一に、一人前の職人になるまでの見習い期間が非常に長いことが挙げられます。板金塗装の技術は一朝一夕で身につくものではなく、先輩の仕事を見ながら、失敗を繰り返して少しずつ覚えていくのが一般的です。数年単位の地道な下積みが必要となるため、すぐに成果を求める人にとっては、モチベーションの維持が難しいと感じるかもしれません。

第二に、塗料や油汚れが身体や衣服に付着し、簡単には落ちないという点も日常的な悩みとなります。作業服が汚れるのはもちろん、手に付いた塗料は専用の洗浄剤を使っても完全には落ちにくく、プライベートで気になる人もいるでしょう。

そして第三に、この仕事には技術だけでなく「センス」が問われる場面があることです。特に塗装の色を合わせる調色作業や、パテを盛って滑らかな曲面を再現する作業では、経験に加えて個人の感覚が仕上がりを左右します。他の職人と比較して上達が遅いと感じ、自信を失ってしまうケースも少なくありません。

言ってしまえば、華やかな技術職というイメージの裏側には、このような地道で根気のいる側面が数多く存在することを認識しておく必要があります。

高い平均年齢が示す業界の課題

板金塗装業界が直面している課題の一つに、職人の高齢化が挙げられます。令和4年時点での板金塗装職人の平均年齢は46.7歳というデータがあり、これは他の多くの産業と比較しても高い水準です。

この平均年齢の高さは、いくつかの側面を浮き彫りにします。 まず、若手の入職者が少なく、技術の継承がうまく進んでいない可能性が考えられます。厳しい労働環境や、前述の通り、一人前になるまでの期間の長さが、若者をこの業界から遠ざけている一因かもしれません。その結果、現場ではベテラン職人に頼らざるを得ない状況が続き、職場全体の活気が失われてしまう懸念もあります。

一方で、この状況は若手にとってチャンスと捉えることも可能です。 職人が高齢化しているということは、裏を返せば若くて意欲のある人材は希少価値が高いということです。ベテランから直接、長年の経験で培われた高度な技術を学ぶ機会に恵まれやすく、数少ない後継者として大切に育ててもらえる可能性が高まります。

ただし、職場によっては、昔ながらの職人気質な気風が根強く残っている場合もあります。新しい技術や働き方に対する理解が乏しい環境では、若手が窮屈な思いをすることもあるでしょう。

このように、職人の平均年齢の高さは業界の課題を示唆すると同時に、これから飛び込む若手にとってはメリットにもデメリットにもなり得る要素を含んでいるのです。

クレームや修理保証期間のプレッシャー

板金塗装の仕事には、常にお客様からの厳しい視線と、仕上がりに対する高い期待が伴います。そのため、精神的なプレッシャーが大きいことも「やめとけ」と言われる理由の一つです。

この仕事の成果は、修理した箇所が「元通りになっているか」という非常に分かりやすい形で現れます。少しでも色が違っていたり、表面に歪みが残っていたりすれば、それはすぐにお客様からのクレームに繋がります。特に高級車や思い入れの強い車を扱う場合は、オーナーのこだわりも強く、ミリ単位のズレも許されないという緊張感の中で作業を進めなければなりません。

万が一、仕上がりに不満が出てやり直しとなれば、追加の材料費や時間がかかるだけでなく、会社の信用問題にも発展します。

また、多くの工場では納車後の修理箇所に対して一定の保証期間を設けています。例えば、数年後に塗装が剥がれてきたり、パテが痩せてへこみが再び現れたりした場合、無償での再修理を求められることがあります。自分の行った仕事が、数年後まで品質を保ち続けられるかという長期的な責任も、職人としてのプレッシャーとなります。

このように、単に目の前の作業をこなすだけでなく、お客様を満足させる品質を常に提供し、その品質に長期間責任を持つという精神的な負担は、この仕事の厳しさの大きな部分を占めています。

それでも板金塗装はやめとけと言い切れない理由

職人不足だからこそ将来性がある

ここまで板金塗装の厳しい側面について解説してきましたが、一方でこの業界には確かな将来性も存在します。その最大の理由は、深刻な職人不足にあります。

前述の通り、厳しい労働環境や長い見習い期間などから若手のなり手が少なく、業界全体で高齢化が進んでいます。しかし、自動車が存在する限り、事故による損傷や経年劣化による修理の需要がなくなることはありません。近年、衝突被害軽減ブレーキのような安全技術が進化していますが、事故が完全にゼロになるわけではなく、ドアをこすったり、バンパーをぶつけたりといった軽微な損傷は後を絶ちません。

この「需要」と「供給（職人の数）」のアンバランスが、技術を持つ職人の価値をますます高めています。厚生労働省のデータを見ても、自動車板金塗装の有効求人倍率は他の職業に比べて非常に高い水準で推移しており、企業側が「引く手あまた」で職人を探している状況がうかがえます。

つまり、一度しっかりとした技術を身につけてしまえば、職に困る可能性は極めて低いと言えます。むしろ、貴重な人材として良い条件で迎え入れられたり、経験を積んで独立開業したりする道も現実的な選択肢となります。

このように考えると、「やめとけ」という意見とは裏腹に、手に職をつけたい人にとっては、むしろ将来性のある魅力的な業界と捉えることができるのです。

向いている人向かない人の決定的な違い

板金塗装は、誰もが活躍できる仕事ではなく、その人の性格や価値観によって向き・不向きがはっきりと分かれる職種です。自分がどちらのタイプに近いかを見極めることが、後悔しないための第一歩となります。

モノづくりへの愛情が原動力になる

最も重要な資質は、やはり「モノづくりが好き」という気持ちです。傷だらけだった車が自分の手で少しずつ元の美しい姿を取り戻していく過程に喜びを感じられる人であれば、見習い期間の厳しさや地道な作業も乗り越えられるでしょう。

逆に、作業を単なる労働としか捉えられない場合、技術の習得に不可欠な探求心や集中力を維持するのは難しいと考えられます。自分の性格や過去の経験を振り返り、この仕事に本当に情熱を注げるかを自問自答することが大切です。

会社の評判を確かめてから職場を選ぼう

同じ板金塗装の仕事でも、どの会社で働くかによって労働環境や待遇、身につく技術のレベルは大きく異なります。入社してから後悔しないためには、事前に会社の評判をしっかりとリサーチすることが欠かせません。

リサーチの方法はいくつかあります。 まず、インターネットの求人サイトや企業の口コミサイトを確認することです。実際にその会社で働いていた、あるいは現在働いている人からのリアルな声は、給与体系や残業の実態、職場の雰囲気などを知る上で非常に参考になります。

次に、可能であればSNSなどを活用して、その会社の情報発信をチェックするのも有効です。修理の実績や工場の様子、職人の紹介などを積極的に行っている会社は、技術に自信があり、クリーンな経営を心がけている可能性が高いと判断できます。

また、最も確実な方法の一つが、実際に見学を申し込むことです。工場の整理整頓の状況や使用している設備、働いている職人たちの表情など、ウェブサイトだけでは分からない情報を自分の目で確かめることができます。整理整頓が行き届いている工場は、作業も丁寧である傾向があります。

注意すべきは、提示された給与や休日の条件だけで安易に飛びつかないことです。特に「未経験でも高収入」を謳う求人には、過酷な労働条件が隠されている場合もあります。複数の会社を比較検討し、その評判や実績を多角的に調べる手間を惜しまない姿勢が、良い職場との出会いに繋がります。

仕上がりに不満が出やすい作業とは

板金塗装の仕事において、お客様からのクレームや不満に繋がりやすい作業は、主に「色」と「形」に関するものです。これらの作業は職人の技術力が如実に現れる部分であり、ここでのミスが会社の評判を大きく左右します。

最も難しい「調色」作業

一つ目は、塗装の色を合わせる「調色」です。車のボディカラーは、同じ車種の同じ色であっても、製造された時期や日光による経年劣化の度合いによって微妙に色合いが異なります。新車時のデータ通りの塗料をそのまま塗っただけでは、修理した部分だけ色が浮いて見えてしまい、不自然な仕上がりになります。熟練の職人は、既存のボディの色を正確に見極め、何種類もの塗料を0.1グラム単位で調合して、完璧な色を作り出します。この作業には、経験と繊細な色彩感覚が不可欠です。

形を再現する「パテ」作業

二つ目は、へこみを埋めるために使う「パテ」の成形作業です。板金作業で大まかな形を整えた後、パテを盛り付けて乾燥させ、ヤスリで削って元の滑らかな曲面を復元します。このパテの量が多すぎたり少なすぎたり、削り方が甘かったりすると、塗装後に表面が歪んで見えたり、数ヶ月から数年後にパテが収縮してへこみが再び現れる「パテ痩せ」という現象が起きたりします。

これらの作業で高い品質を保つには、職人の技術力はもちろん、作業環境も重要です。例えば、ホコリの侵入を防ぐ専用の塗装ブースや、正確な調色を支援する機械などの設備が整っているかどうかも、仕上がりの質に大きく影響します。

ディーラーだから上手い、下手とは限らない

車の修理を依頼する際、多くの人が「ディーラーなら安心」と考えるかもしれません。しかし、板金塗装の仕上がりに関して言えば、「ディーラーだから絶対に上手い」あるいは「町の板金工場は下手」と一概に決めつけることはできません。それぞれにメリットとデメリットが存在します。

ディーラーの特徴

ディーラーに依頼する最大のメリットは、品質の安定性と保証の手厚さです。メーカーの看板を背負っているため、一定水準以上の設備と技術基準を設けており、仕上がりに大きなばらつきは出にくいと考えられます。また、万が一修理後に不具合が出た場合のアフターフォローもしっかりしています。 一方、デメリットは費用が高額になりがちな点です。また、ディーラーによっては自社で工場を持たず、提携している下請けの板金工場に作業を依頼しているケースもあります。この場合、実際に作業するのは町の板金工場の職人ということになります。

町の板金工場の特徴

町の板金工場に直接依頼するメリットは、ディーラーを通さないため費用を安く抑えられる可能性がある点や、細かい要望にも柔軟に対応してくれる場合があることです。 しかし、最大の注意点は工場によって技術力や設備の差が非常に大きいことです。最新の設備を導入し、腕利きの職人がいる優良な工場もあれば、古い設備のまま最低限の作業しか行わない工場も存在します。下手な工場に当たってしまうと、仕上がりに不満が残るリスクはディーラーよりも高いと言えます。

要するに、職場を選ぶ際も、修理を依頼する際も、「ディーラーか町工場か」という看板だけで判断するのではなく、その工場の設備や実績、評判を個別に見て判断することが何よりも大切です。

まとめ：板金塗装はやめとけの言葉の真意

この記事では、「板金塗装はやめとけ」という言葉の背景にある様々な情報を掘り下げてきました。厳しい現実がある一方で、それを上回る魅力と将来性も確かに存在します。

最後に、この記事の要点をまとめます。